医伝士のビジョン。日本の医療倫理を、テクノロジーで次世代へつなぐ。

株式会社医伝士の宗です。私は耳鼻咽喉科医・在宅医として現場に立ちながら、医療スタートアップの代表として活動しています。
これまでのnoteでは、医療現場における情報の分断や、構造的な課題について述べてきました。
今回は、それらの課題解決の先にある私たちのビジョン、そして「医伝士」という社名に込めた想いについて書きたいと思います。

「10分」と「60分」の間に落ちるもの

私は現在も在宅医療の現場に立ち続けていますが、そこで痛感するのは時間の壁です。
私たち医師が患者さんと向き合える時間は、制度上どうしても1回10分から20分に限られます。
一方で、訪問看護師やヘルパーの方々は約60分滞在し、生活の細部までケアを行います。
この10分と60分の間には、圧倒的な情報の深さの違いがあります。

「実は、この患者さんはこういうお話が好き」
「本当は、最後に家族旅行に行きたい」

医師である私だけがその深い願いを知らず、最期の瞬間になって初めて看護師から聞かされることが何度もありました。
もっと早く知っていれば、違う方針を提案できたのに。その悔しさが、今の私の原動力です。

「D to P with N」への転換

この分断を解消するために、私たちは「kowairo」というサービスを開発しました。
訪問中の会話をAIが聞き取り、記録や報告書を自動で作成する。それによって、今まで記録に使っていた時間を「患者さんの目を見て話す時間」に変えるためのプロダクトです。

しかし、これは単なる効率化ツールではありません。私たちが目指しているのは、「D to P with N」という新しい連携モデルです。
今の医療DXの多くは、医師(Doctor)と患者(Patient)を直接つなぐ「D to P」を目指しがちです。
しかし、高齢の患者さんがアプリを使いこなすのは難しく、多忙な医師が常時つながるのも現実的ではありません。

だからこそ、最も長く患者さんの傍にいて、その生活や人生観を一番知っている訪問看護師(Nurse)をハブにします。
看護師さんが聞き取った患者さんの声や価値観を、AIが構造化して医師やケアマネジャーに届ける。
「N」を通じて初めて、医師は患者さんの人生を知り、最適な医療を提供できるのです。

街をひとつの病院にする

この情報基盤が整った先にある未来。それは、街全体をひとつの病院にするという構想です。
これは、巨大な建物を建てる話ではありません。自宅にいながら、医師、看護師、薬剤師、介護職が、まるで一つのナースステーションにいるかのように情報をリアルタイムで共有し、チームとして動く仕組みです。
入院か、自宅か。その二択の境界線をなくしたい。
住み慣れた自宅にいながら、病院に入院しているのと同じ安心感と、高度なチーム医療を受けられる社会。
それが、私たちの目指す「壁のない病院」です。

国策という追い風

この構想は、決して夢物語ではありません。今、国(厚生労働省)もまた、医療・介護情報を統合し、全国規模の「医療情報基盤」を構築しようと動いています。
マイナンバー等を活用し、バラバラだったデータを一つにつなげる。私たちの目指す「職種を超えた情報プラットフォーム」は、まさにこの国策と完全に合致しています。
時代の潮流は、間違いなく情報の統合へと向かっています。
国レベルでの基盤整備が進む今こそが、この「壁のない病院」を実現する最大の好機なのです。

課題先進国から世界へ

そして、このモデルは日本だけに留まるものではありません。
日本は今、世界で最も高齢化が進んでいる国です。私たちは、人類がまだ経験したことのない多死社会の最前線にいます。世界は今、日本がこの高齢化にどう対処するのかを注目しています。

ここで私たちが構築しようとしているモデルは、近い将来、必ず世界中で必要とされます。
韓国、台湾、シンガポールなど、アジア諸国も日本を追うように高齢化が進んでいます。日本発のこの医療モデルは、世界の高齢化社会を救う希望になると確信しています。
単なる業務効率化ではありません。
これは、次世代の社会インフラを作る挑戦です。

日本の医療倫理を未来へ遺す

私は、日本の医療制度や、そこで培われてきた倫理観に強い誇りを持っています。国民皆保険制度という公助の仕組み、そして相手を思いやり、察する文化。これらは世界に誇るべき日本の資産です。

しかし、現場の自己犠牲に頼る今のシステムは限界を迎えています。このままでは、日本人が大切にしてきた「寄り添う心」すら維持できなくなってしまうかもしれません。

私たちの社名である「医伝士(いでんし)」には、2つの意味を込めています。

一つは、生物の遺伝子のように、日本の医療が守ってきた高い倫理観や精神性を、未来へと受け継いで(遺して)いくこと。
もう一つは、医師(医)の志を伝える武士(士)のように、強い信念を持って変革に取り組むことです。

時代やツールが変わっても、医療の本質が「人と人との関わり」であることに変わりはありません。
日本の医療が持つ温かさや高潔さを損なうことなく、次世代の社会インフラとして再構築する。
それが、株式会社医伝士のミッションです。

最後に

私たちは、現場の負担を減らし、医療本来の価値を取り戻すための挑戦を続けています。この構造的な変革には、職種や立場の垣根を超えた多くの仲間の力が必要です。
日本の未来の医療を作るというこの取り組みに共感してくださる方と、共に歩んでいければ幸いです。


※ この記事はnoteにも掲載しています。

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